コインの製造方法

コインの製造方法は、大きく分けて2種類あります。鍛造(たんぞう)と鋳造(ちゅうぞう)です。
鍛造は、コインの元となる金属に型を押し当て、ハンマーでたたくなどして圧力をかける方法です。欧州、中東、アフリカ、米州などで採用されました。
一方、鋳造は、溶かした金属を型に流し込んで、冷えたら取り出すという方法です。昔の中国や日本などで採用されました。日本では、江戸時代まで採用されていました。
そこで、紀元前から現代まで使われ続けている鍛造について、古代から現代までのコイン製造方法の違いを確認しましょう。
1古代から中世にかけてのコイン製造方法
下の絵を見ていただくと、コインの作り方が簡単に分かるでしょう。

最初に、コインの元となる金(きん)や銀などを確保します。そして、一定の重量と形に整えたら、型に挟んでハンマーでたたく!という方法です。
下のコインをご覧ください。紀元前600年から紀元前550年くらいのコインです。表にはデザインがありますが、裏は何もないことが分かります。「何もない」は正確でなく、何か形があることが分かります。
古代ギリシャ エレクトロン1/6ステーター金貨 グリフォン頭像【希少品】
これは、デザインでなく、土台のデコボコです。コインの表には、デザインされた美しい金型を使ったのですが、裏についてはデザインしなかったということになります。
この方法ですと、コイン全体に均等に強い圧力を加えるのは、技術が必要だと想像できます。
下のコインは、古代ローマ皇帝ネロ(紀元1世紀)の金貨です。この時代には、表と裏の両方に刻印があることが分かります。しかし、裏面の刻印がずれているのはご愛嬌。全て手作業ですから、こういうこともあります。
むしろ、多少なりともズレているのが通常でしょう。
この状況は、銀貨等でも同じです。
帝政ローマ 第5代皇帝ネロ【アウレウス金貨】
2近世のコイン製造方法
時代が下りますと、ハンマーでたたくという方法は徐々に廃れ、およそ16世紀あたりまでには、別の方法が使われるようになりました。
それが、下の絵に描いてある方法です。

この絵を見るだけで、様々な事が分かります。
複数の若い男性が、機械を綱を引いて回していることが分かります。これはプレス機です。プレス機でコインに刻印しています。
ハンマーよりも力強く、そして正確にコインを作れます。
ここで、気になる点があります。若い作業員らしき男性の足元に、カゴのようなものがあります。そして、小さな丸いものがたくさん入っています。
この小さな丸いものは、金貨です。
金貨を作ったら、無造作にカゴに入れてため込んでいることが分かります。そして、ある程度作ったら、そのままガチャガチャと音をたてながら別の場所に運んで、ドン!と置くでしょう。
そして、運搬中は麻袋に入れていました。運搬中に金貨がお互いにぶつかり合います。
…そうです。この当時の金貨は、流通前の新品が既に傷だらけなのです。何ともったいない!という感想を持ってしまいます。当時は、そんなことを考えて作っていないことが分かります。
この状況は、銀貨等でも同じです。
下の金貨は、ダンツィヒ(現在のポーランド)の金貨です。ハンマーでたたく場合よりも、細かいデザインになっていることが分かります。
ダンツィヒ(ポーランド) 1ダカット金貨 ヨハン・カシミール
なお、17世紀から18世紀にかけて、一部地域で「ローラーダイ」を使ってコインが作られました。この仕組みや特徴につきまして、別記事「【ローラーダイ】17世紀~18世紀のコイン製造方法」で考察しています。
レア画像もありますので、ご確認ください。
3産業革命以降のコイン製造方法
そして、18世紀後半から19世紀にかけて、産業革命が起きました。人の手で押し回す方法に比べて、はるかに強力な圧力をかけられます。
下は、初期の蒸気式圧印機によるコイン製造の様子です。何やら複雑な構造に見えます。コインを作っている人は、作業服でありません。すなわち、人力を完全に脱していることが分かります。

この方法を使うと、コイン一つ一つのデザインがくっきりと、美しくなります。下のコインは、イギリスのヴィクトリア女王の在位50周年を記念して発行された金貨です。
細部にまで装飾が施されている様子が分かります。
イギリス ヴィクトリア 2ポンド金貨 ジュビリー【準未使用~未使用品】
貨幣を無造作に運搬してしまい、新品なのに傷だらけ…というのは、この時期も同様でした。
4現在の貨幣製造方法
そして、現代の貨幣は、コンピュータで高度に制御された方法で、寸分の狂いなく大量に作られています。
下は、造幣局ホームページからの引用です。コインにデザインを刻印している部分です。産業革命の時代と比べて、圧力も精度も圧倒的に優秀です。その分だけ、美しい貨幣ができます。

また、現代の記念コイン等は、購入者がコレクションアイテムとして大切に保管します。そこで、コインに傷がつかないよう、丁寧に作られます。
なお、造幣局ホームページの画像は小さいうえに、製造用の機械が部分的にしか掲載されていません。これは、貨幣製造が高度な機密事項に属するからでしょう。
下のコインは、スイスで実施された射撃祭を記念する金貨です(発行枚数6枚)。プルーフ(鏡面仕上げ)になっており、ピカピカです。コインが黒く見えるのは、この輝きのためです。
コインの写真を取る際に、フラッシュを使います。あまりにコインがピカピカなので、フラッシュの光が完璧に跳ね返されてしまい、その部分が黒く写ります。
1991年 ランゲンタール(ベルン)射撃祭記念 50フラン金貨【発行枚数:6枚】プルーフ・完全未使用
【コインNo】8367
【発行国】スイス
【額面】50フラン
【発行枚数】6枚
【年号】1991年
【材質】金
【直径】37mm
【グレード】PF FDC
【NGC】2727467-006/69/
【カタログ】Hab-41b

- 関連・参考ページ
- プルーフ(鏡面仕上げ)の見分け方~黒い金貨の理由
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歴史(history)
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