大小さまざまな大きさの金貨

世界中で、様々な大きさの金貨が発行されてきました。例として、極端に小さいものと大きいものを見てみましょう。
小さい金貨
下は、直径14mm、重量はわずか0.6gです。ポケットに入れていたら、簡単に紛失しそうです。0.6gでも十分小さいですが、世の中には0.1gという金貨もあります。
オランダ領東インド スマトラ・アチェ土侯国(イスラム土侯国) 1クーパング金貨
大きい金貨
逆に、下はとにかく大きいです。直径70mmで重量は373.24gもあります。30gくらいの金貨でも、手に持つとずっしりと重量を感じます。373gというと、その10倍以上です。
ちなみに、500円硬貨の直径は26.5mmで、重量は7gです。この金貨がいかに巨大か、良く分かります。巨大さにふさわしい価格がついています。
中国 1000元金貨【プルーフ・完全未使用】
これだけ大きいと、日々の支払には全く向きません。額面は1,000元しかありませんし。記念コインとして、コレクションアイテムになっています。
「一般的」な金貨の大きさ
このような極端な物でなく、一般的な金貨の大きさはどうなのか?ですが、何をもって一般的と表現してよいのか、とても難しいです。
そこで、ここでは、世界的に人気がある近代イギリスの金貨で見てみましょう。下は、1ソブリン金貨です。重量は7.99gですから、およそ8gです。
イギリス 1ソボレン金貨 ジョージ5世【プルーフ・未使用品】
【コインNo】 8513
【製造元】イギリス
【額面】1ソボレン
【製造年】1911年
【材質】金
【直径】22mm
【重量】7.99g
【グレード】PF UNC
【カタログ】SPINK3996/KM820/Fr404a

各金貨の基準値(g)は、下の通りです。ハーフソブリン金貨の重量は、1ソブリンの半分です。2ポンド金貨の重量は、2倍になります。5ポンドは、5倍です。コインの額面と金重量は、比例しています。
- ハーフソブリン:3.9940g
- 1ソブリン:7.9881g
- 2ポンド:15.9761g
- 5ポンド:39.9403g
金の産出量の歴史
上のちょっとした比較でも、何となく予想できますが、古い金貨になるほど重量が軽くなる傾向があります。それはなぜかと言えば、昔は金がなかったからです。
下のグラフは、金の産出量(累計)と人口の推移をグラフにしたものです。緑色の線が、金です。横軸は西暦で、縦軸はキロトン(1,000トン)です。

引用:ASPO France
緑色の線を見ますと、1800年くらいまで、金の累計産出量は緩やかに増加していたことが分かります。
そして、産業革命と1840年代のゴールドラッシュとが重なり、一気に産出量が増えました。技術革新はどんどん進みますから、金も劇的に増えました。
産業革命前と産業革命後で、ざっくりと分けて考察します。
1新大陸発見と価格革命
15世紀末から、スペインとポルトガルによる大航海時代が始まりました。その結果、両国はアメリカ大陸を手に収め、当時としては桁違いの金銀をヨーロッパにもたらしました。
それが、価格革命を引き起こしています。価格革命について、小さな経済圏を例にして考えてみましょう。
例えば、世の中に商品が100個あるとしましょう。そして、金貨は100枚だとします。この場合、単純に見て、商品1つの価格は金貨1枚になります。
ところが、アメリカ大陸から膨大な金がもたらされました。その結果、金貨は200枚になったとします。商品の数は、相変わらず100個です。
この結果、商品の価格は、1つあたり金貨2枚になります。このようなことが、ヨーロッパで起きました。価格革命とはすなわち、インフレーションです。
価格革命は、歴史用語にもなるような経済の大変動でした。ところが、金産出量のグラフを見ますと、1500年代に金が大幅に増加したように見えません。
すなわち、産業革命以前の金産出量はいかに少なかったか、そして、産業革命以降の金産出量がいかに桁外れに多かったかが、良く分かります。
下の金貨は、コブマネーと呼ばれるコインです。新大陸発見後、本国スペインで高品質な金貨を作る余裕がないほど、たくさんの金が取れました。
そこで、デザインよりも大量生産を重視したコインが発行されました。
スペイン 4エスクード金貨 フェリペ2世
大航海時代のスペインにつきましては、別記事「スペインのアンティークコイン【大航海時代からフェリペ2世まで】」でご確認いただけます。
とはいえ、たくさん金がとれたと言っても、現代と比べると、比較にならないくらいわずかな量です。
今、私たちは金を買って、手にすることができます。金自体は豊富にありますから、お金さえ出せばいくらでも手にすることができます。
ところが、産業革命以前の世界では、金は存在自体が貴重だったと予想できます。私たちが目にする金と、当時の人々が目にした金は、同じ金でも、印象は大きく異なった可能性があります。
2産業革命・ゴールドラッシュ後
次に、産業革命後を見てみましょう。産業革命後の金貨は、大型化が特徴です。機械で金貨を作りますから、手作業とは違って精密な作りです。
下は、1850年に発行された金貨です。プルーフの未使用品ですから、極めて美しい仕上がりになっています。現存数が限られる上に人気もありますから、価格もそれを反映しています。
オランダ ウィルヘルム3世 20グルデン金貨【未使用品】
【コインNo】8312
【製造元】オランダ
【額面】20グルデン
【製造年】1850年
【材質】金
【直径】26mm
【グレード】PF UNC
【カタログ】Fr339/KM96/Schulman542

大航海時代のスペインのコブマネーと比較すると、精巧さが全く異なることが分かります。これが、科学技術の発展ということなのでしょう。
しかし、これをもって、大航海時代スペインのコブマネーは価値がない、ということではありません。
「大航海時代」という歴史的価値があります。また、金貨を調べると、その時代がぼんやりと見えてきます。手にして目を閉じると、当時の世界が頭の中に浮かんできます。
デザインも、精密とはいえませんが、当時の時代を反映したものです。魅力的な逸品であることに、変わりはありません。
31850年以降の産出量
さらに、1850年以降の、毎年の金採掘量(累計でなく、単年の生産量)を確認しましょう。下のグラフです。増えたり減ったりを繰り返しつつも、毎年の生産量は増え続けました。

引用:SSEE
グラフ右端に近い部分で、生産量が劇的に増加していることが分かります。1980年代です。生産量増加の理由は、下の金価格の推移を見ると、良く分かります(田中貴金属工業のデータを元に製作)。
グラフの左側を見ますと、1980年頃に金相場が何倍にもなったことが分かります。
金を採掘すればするほど儲かりますから、各社とも設備投資を増加させたことでしょう。それが、生産量に反映されています。

金が大量にあるから、巨大な金貨を作れる
これだけ金が世の中に溢れますと、巨大な金貨を作るのは容易になります。また、現在は管理通貨制度です。すなわち、金本位制度と異なり、通貨発行に際して金の保有は義務ではありません。
金の保有はそこそこにしておいて、記念金貨を発行してコレクターに売ることができます。
この記事冒頭の巨大なパンダ金貨も、こういった時代背景を元に製造されたのだと推測できます。
まとめ
以上の通り概観しますと、一般的に、金貨の大きさは以下の通りだと言えそうです。
新大陸発見以前は、金の存在自体が珍しかったため、金貨1枚の大きさは小さい傾向にありました。新大陸発見により、スペインの金貨などで、大型の金貨が徐々に出てくるようになりました。
そして、産業革命とゴールドラッシュを経て、世の中に金が豊富に流通するようになり、超大型の金貨も登場するようになりました。
なお、産業革命以前の時代にも、大型金貨が発行されることがありました。それは、現代の大型金貨に比べて、心理的にも現実的にも、大変な価値があっただろうと分かります。
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