金本位制、銀本位制と景気循環

金本位制とは、「国家が発行する貨幣や紙幣の量は、国家が保有している金の量を上限とする」という制度です。
このため、金本位制を採用している国では、紙幣に「この紙幣を銀行にもっていけば、同じ価値の金と交換します」という趣旨の言葉が掲載されています。
下の紙幣を見ますと、右側中ほどに、「此券引換に金貨拾圓相渡可申候」とあります。「この紙幣と引き換えに、10円分の金貨をもらえます」という意味です。

この金本位制ですが、景気を自動的に調節する機能があります(銀本位制でも同様です)。この機能について確認しましょう。
金本位制の景気自動調節機能
あるとき、金本位制を採用している国の景気が、絶好調になったとしましょう。すると、国内消費が活発になります。輸入も大きく増えるでしょう。
輸出は外国の動向次第ですので、変化なしとします。この場合、輸出の対価として受け取る金(きん)よりも、輸入の対価として支払う金の方が多くなります。すなわち、金備蓄が減少します。
金の備蓄が減少すれば、発行できる紙幣や貨幣の上限が下がります。お金の総量が強制的に減らされるので、デフレになります。
デフレになれば、景気が悪くなります。
景気が悪くなれば、輸入は減るでしょう。輸入が減れば、外国に流出する金の量が減ります。すると、輸出で得られる金の方が多くなります。結果として、国家の金備蓄が増え、流通する貨幣や紙幣の総量が増えます。
すると、インフレ気味に推移するようになり、景気が回復します。
こうして、金本位制を採用していれば、景気拡大は行き過ぎないし、景気縮小が行き過ぎることもない、という考え方が可能です。
金本位制の現実
では、現実はどうでしょうか。確認しましょう。
古代ローマ帝国
古代ローマ帝国は、一般的に金本位制という言葉で説明されません。しかし、貨幣は金や銀などで作られていました。
古代ローマ帝国は、周辺諸国を制圧して金や銀を獲得しましたので、とても大きな金保有量でした。しかし、ヘレニズム世界からの輸入が多く、金は外国に流出し続けました。
結果として、金保有量が数分の1以下に減ってしまいました。これに対応するため、金貨や銀貨1枚あたりの金銀含有量を減らしました。古代ローマ帝国の金保有量は減少し続けましたので、時とともに金貨や銀貨の質は低下する一方です。
その結果、経済は混乱してしまい、他の理由もあって西ローマ帝国は5世紀後半に滅んでしまいました。
明治時代の日本
また、明治時代の日本を振り返りましょう。明治時代に入ってから、日本は金本位制を採用しました。しかし、下のグラフの通り、経常収支赤字が続きました。
【引用元:日本銀行百年史】

金備蓄があまりに減ってしまい、金本位制を継続できなくなりました。そこで、日本は銀本位制を採用することにしました(その後、金備蓄が増えたので、1897年に再び金本位制に戻りました)。
不景気を放置できない
為政者としては、「不景気になっても、金本位制だからそのうち復活するからOK」という感じで、のんびりすることはできません。
不景気ということは、生活が苦しくなるということです。その状態は、少しでも早く終わらせる必要があります。
金本位制の仕組みが機能するのを待つ余裕はありません。また、実際に金本位制の機能が効果を発揮する前に、国家が転覆しかねません。
好景気は維持したい
逆に、好景気は少しでも長く維持したいです。好景気ということは、より良い生活水準を実現できるということだからです。
そこで、好景気が行き過ぎそうになったら、輸出を増やす施策や、輸入を少し抑える施策を採用するでしょう。あるいは、国家財産を民間に売却して、金を国家に貯蔵する案もあるでしょう。
こうして、金本位制の自然な成り行きに抵抗します。
好景気な国がその状態を引き延ばしすると、不景気な国は、不景気が長引くことになります。どこかで国家同士のケンカになるでしょう。
現代社会は、管理通貨制度
現代社会は、管理通貨制度です。すなわち、通貨の発行上限は金や銀の備蓄量に制限されず、自由に通貨を発行できます。
よって、金本位制のデメリットがありません。しかし、別のデメリットがあります。
下は、アフリカにあるジンバブエの紙幣です。桁が大きすぎて分かりませんが、100兆ジンバブエドル紙幣です。
経済政策の失敗で経済が破綻してしまい、こんな紙幣が発行されるようになりました。当時、300兆ジンバブエドル=1円だったそうです。
100兆ジンバブエドル札と、1ジンバブエドルを合わせて購入できます。
これを例えるなら、こんな感じです。
今まで、何年も頑張って貯蓄して、1,000万円貯めたとしましょう。頑張りました!…しかし、国家が財政破綻状態になり、パン一つの値段が1億円になりました!
よって、今までの苦労はすべて水の泡になりましたとさ。おしまい。
数字の桁は適当に作っていますが、国家の財政が破綻するというのは、こういうことです。
- 関連・参考ページ
- ジンバブエドルとインフレーション
管理通貨制度での資産保有方法
管理通貨制度では、紙幣や貨幣の価値は、国家の財政状態などに依存します。よって、今後も日本は安泰だと思う場合は、円だけで資産を持つ選択肢になるでしょう。
多少なりとも不安がある場合は、自分の資産の一部を、外国通貨やアンティークコインなどに振り向ける選択肢が出てきます。
アンティークコインは貴金属が多いので、歴史的な希少性に加えて、貴金属自体の価値を期待できるためです。
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