現存数12枚の貴重な銀貨
今回ご案内します銀貨は、世界で12枚しか存在しない銀貨です。しかも、その中で最高水準のグレードを誇ります。
上のスペック表を見て気づくのは、価格の高さではないでしょうか。銀貨で1,800万円は、破格の高値です。いかに貴重な銀貨なのかが分かります。
また、発行年は1635年です。400年近く前の銀貨ですが、保存状態が極めて良いです(スペック表にあるUNCとは、未使用という意味です)。
このコインは、コイン鑑定会社のNGCによって鑑定されています。下の画像は、鑑定結果の一部です。

右側下に、黄色で「Top Pop」とあります。これは、NGCが鑑定した銀貨の中で最高品質だという意味です。
1635年のこの銀貨は、世界で12枚しかありません。そして、鑑定済みの中で最高品質です。よって、高値になっています。
「世界最高の1枚を集める」というコレクターの皆様に、ピッタリの銀貨です。ちなみに、この記事の筆者は、欲しくても買えません…。買う人を選ぶ銀貨です。
銀貨の大きさ
ちなみに、写真では分かりづらいのですが、その大きさも大変なものです。直径74mm、重量は170gもあります。
現代日本で流通している最大のコインは、500円硬貨です。500円硬貨の直径は26.5mm、重さは7gです。すなわち、この銀貨は、500円硬貨と比べて面積は8倍弱、重さは24倍くらいもあります。
いかに巨大な銀貨なのかが分かります。
NGCの鑑定済みコインは、スラブ(ケース)に封入されます。あまりにコインが大きいので、このスラブも巨大です。
50レアル銀貨の用途
では、この巨大な50レアル銀貨の用途は、何でしょうか。
仮に、現代日本でこの巨大銀貨を発行するとしましょう。財布に入れて持ち運べません。カバンに入れられますが、重くて不便です。額面が高額ですから、盗難も心配です。
すなわち、日常的な用途でないと予想できます。
スペイン王室が臣下などに対して褒美として渡す、あるいは、外国の要人にプレゼントするなどの用途を想定できます。
銀貨のデザイン
では、コインのデザインを確認しましょう。

最初に、周囲に描いてある文字から確認しましょう。「PHILIPPVS IIII D G」です。英語では「Philip IV by the grace of God」すなわち「フィリップ4世 神の御恵みにより」という意味になります。
そして、赤枠1は、造幣所のマークです。このマークは、セゴビアを表しています。
セゴビアとは、スペイン中部にある都市です。下の地図を見ますと、首都マドリードの北西にあることが分かります。

セゴビアで有名なのは、古代ローマ帝国時代に造られた水道橋です。西暦1世紀から2世紀あたりに建造されました。
下は、その写真です。建造後2,000年近くになろうかという建築物ですが、数々の戦乱や自然災害を乗り越えて、現代に伝えられています。
とても素晴らしい作りで、ユネスコの世界遺産にも登録されています。

セゴビアの水道橋(引用:World Heritage Photos)
話をコインに戻しまして、赤枠1で描かれたセゴビアのマークは、この水道橋をデザイン化したものです。コインの写真をよく見ますと、水道橋だと分かります。
次に、赤枠2の部分を確認しましょう。ここには支配地域の紋章が描かれています。すなわち、このデザインは、ハプスブルク朝スペイン王国の国章です。

カラーの紋章(盾部分の拡大)を見ながら、どこにどんなデザインが描かれているのかを確認しましょう。下の各王国・公国などの国章を組み合わせたものです。
- カスティリャとレオン(お城2つがカスティリャ、ライオン2頭がレオン)
- ポルトガル
- アラゴン
- シチリア
- グラナダ
- ブルグント
- ブラバント
- チロル
- フランドル伯
- ブルゴーニュ
- オーストリア
現代の地理感覚から見ると、どう見てもスペイン領でない地域が、いくつもあります。ポルトガルやオーストリアなどです。
すなわち、当時のスペイン国王フェリペ4世は、それほどまでに広大な領土を支配していたということになります。
裏側のデザイン
次に、裏側を確認しましょう。表と異なり、紋章は一つです。すなわち、カスティリャとレオンの組み合わせだけです。

スペインは、カスティリャとレオンを中心にして動いていたことが分かります。
周囲に描いてある文字は、「HISPANIARVM REX 1635」すなわち、「スペイン王 1635年」です。
コインの製造方法
なお、コインの写真をよく見ますと、中央部に小さなヒビと言いますか、割れ目のようなものが数多くあることが分かります。
このコインのグレードがUNC(未使用)であることから分かりますが、これは、製造時に不可避的に発生したものです。
一般的なコインの製造方法は、別記事「アンティークコインの製造方法」でご案内した通りです。すなわち、金属に上下から圧力をかけて刻印します。

フェリペ4世の50レアル銀貨は、少し違います。「ローラーダイ(ローラー刻印)」で製造しています。

この方法で製造すると、コインが反ってしまったり、ヒビが入ったりしがちです。しかし、今回ご案内している50レアル銀貨は、反りが少なく、ヒビも少なめです。
よって、保存状態が良い事もあり、世界最高水準の鑑定結果を得ています。
ちなみに、この小さなヒビのようなものですが、偽造防止に役立っています。現代の技術で同じものを作ろうとすると、技術水準が自動的に高くなってしまい、不自然にきれいに出来上がってしまうためです。
パッと見たところ「あれ?」という感じがする部分ですが、当時の技術水準を考えたり、その技術で最高のコインを作ろうとしていた技術者の苦労を想像したりできます。アンティークコインには、このように想像する楽しみ方もあるでしょう。
なお、ローラーダイの仕組みや特徴につきまして、別記事「【ローラーダイ】17世紀~18世紀のコイン製造方法」で考察しています。レア画像もありますので、ご確認ください。
歴史(history)
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