ナポレオン金貨=ナポレオン3世の金貨

ナポレオン金貨と言えば、通常はナポレオン3世が発行した金貨を指します。
しかし、ナポレオンという名前で世界的に有名なのは、ナポレオン3世でなくてナポレオン1世(ナポレオン・ボナパルト)でしょう。
なぜ、「ナポレオン金貨=ナポレオン3世の金貨」なのでしょうか。それは、ナポレオン3世は金貨を大量に発行したからです。そこで、ナポレオン金貨が大量発行された理由を確認しましょう。
その後に、デザインを詳しく見ていきます。
ちなみに、ナポレオン3世の在位期間は、以下の通りです。以下の期間を中心に記事を展開します。
フランス第二共和政の大統領:1848年~1852年
フランス第二帝政の皇帝:1852年~1870年
ナポレオン1世のコインにつきましては、別記事「ナポレオン金貨の人気度」でご案内しています。
ナポレオン金貨の外観
金貨が大量発行された理由を見る前に、外観をざっくりと眺めましょう。ナポレオン金貨は、20フランを中心に、10フラン、50フラン、100フランが発行されました。
150年以上前の金貨なのに、未使用品でも比較的買いやすい価格になっています。これは、製造数が多かったために、現存数も多いことを示しています。
フランス ナポレオン3世 50フラン金貨【完全未使用品】
フランス ナポレオン3世(月桂冠)100フラン金貨【極美品+】
ナポレオン金貨の製造枚数
最初に、ナポレオン金貨の製造数の推移を確認しましょう。
ナポレオン金貨は、20フランを中心に発行されました。そこで、20フラン金貨の製造数でグラフを作っています。下の通りです(データ引用元:Standard Catalog of WORLD COINS 1801-1900)。

1835年から1850年にかけて、製造数がとても少ないことが分かります。
グラフでは、製造枚数が0枚の年がいくつもあるように見えます。実際には、毎年のように製造されています。縦軸の単位が百万枚なので、ゼロに見えてしまうというだけです。
正確には、この期間の製造数が少ないのではなく、1850年代~1870年にかけての製造数があまりに多いです。
1859年には、2,600万枚以上も製造されています。
金貨全体の製造量
上のグラフは、20フラン金貨に限定していました。次に、金貨全体の製造量を見ましょう。
額面が違えば、使用する金の量も異なります。そこで、ここでは「枚」でなく、重量の単位である「トン」を基準にしましょう。
以下の通りです(swcs.com.auから引用)。

上のグラフですが、1845年~1850年の製造量全体を、1845年の製造量として表示しています。ナポレオン3世が為政者だった時代(1848年~1870年)に、製造数が圧倒的に多いことが分かります。
なお、青い線は、フランスの金準備の推移です。金準備とは、国家によって保有されている金の量です。
金準備よりも、金貨発行を優先していた様子が分かります。
世界全体の金採掘量
ナポレオン3世は、金貨を大量に作りました。しかし、金貨を作るには、原料となる金が必要です。
当時、そんなにたくさんの金があったのか?ですが、下のグラフで確認しましょう。世界全体の、金採掘量です(swcs.com.auから引用)。

1840年代から、金の生産量がいきなり上昇している様子が分かります。この理由ですが、金鉱の発見や、産業革命の影響が大きいのでは?と予想できます。
有名なカリフォルニア州のゴールドラッシュは、19世紀半ばから起きています。
また、つるはしで岩を砕いて金を採るか、それとも重機を使って採掘するかの違いを考えますと、産業革命の影響も大きそうだと予想できます。
こうして、世界全体を見れば、金貨を作る材料としての金は、比較的豊富でした。
フランスで金貨が大量発行できた理由
19世紀、金の採掘量が増えたことが分かりました。しかし、それをフランスの金貨生産増加の原因とするには、不十分でしょう。
と言いますのは、世界で金が生産されても、フランスの手元に来ないと金貨を作れないからです。
すなわち、当時は、フランスに金が集合しやすい経済状態だったと言えそうです。当時のフランスを取り巻く状況を確認しましょう。
ラテン通貨同盟
19世紀の欧州大陸では、フランスが強大な力を持っていました。このため、ベルギー・スイス・イタリアは、フランスに断りを入れることなく、フランスの貨幣法をそのまま流用して使っていました。
具体的には、フランスは品位0.9(純度90%)の5グラム銀貨を1フランと定めたのですが、他の3か国は、この基準をそのまま使いました。
そして、ベルギーなどでは、フランスの銀貨を輸入して流通させていました。フランスへの依存度がとても高いと言えます。
その後、フランスに無許可で勝手に模倣するのでなく、1866年に条約として明文化されたのが、ラテン通貨同盟です。
このラテン通貨同盟ですが、正式な加盟国はフランス、ベルギー、イタリア、ギリシャです。しかし、条約に加盟せずに同じ制度を採用した国が多数に上りました。
- オーストリア
- スペイン
- ルーマニア
- フィンランド
- セルビア
- ブルガリア
- コロンビア
- ペルー
- ベネズエラ
- アルジェリア
- チェニス など
すなわち、フランスは巨大な通貨圏の盟主として君臨したことになります。
パリは、世界的な金の中心地
また、フランスの首都パリは、世界的な金の中心地として繁栄していました。オーストラリア、南アフリカ、米国、ロシアなどで採掘された金は、パリに流入していました。
そして、世界的な金の中心地となったパリは、各国の中央銀行と密接な協力関係にありました。
このような状況でしたから、フランスが自由に使える金の量はとても多かったと予想できます。これが、ナポレオン金貨を大量発行できた理由でしょう。
ナポレオン金貨のデザイン
では、ナポレオン金貨のデザインを確認しましょう。主に2種類かあります。月桂樹のリースをかぶっているかいないか、です。
下のナポレオン3世は、左の頭像はリースをかぶっています。一方、右側の頭像は、何もかぶっていません。

ナポレオン金貨を選ぶ場合、リースのある・なしを見比べると、興味深いかもしれません。
なお、コインの一番下にある「BARRE」というのは、このコインをデザインした人の名前(Desire-Albert Barre)です。周囲に書いてある文字は、「NAPOLEON III EMPEREUR」(皇帝ナポレオン3世)です。
本コインの裏側
コインの裏側は、月桂樹のリースに囲まれた中に、額面(ここでは10フラン)と、発行年(1856年)が刻まれています。

周囲にある文字は、「EMPIRE FRANCAIS」(フランス帝国)です。
コインの一番下に、「A」という文字があります。これはミントマークです。すなわち、どの造幣局で作られたかが分かります。
ナポレオン金貨は、下の造幣所で作られました。ほとんどがパリで作られ、リヨンで作られたのは、わずかです。
- A:パリ
- BB:ストラスブルグ
- D:リヨン
フランス人は金貨でも貯蓄
アンティークコインについて調べていると、「フランス人は銀行預金に加えて、金貨でも貯蓄する」という話題に触れることがあるかもしれません。
これは、今までの考察を振り返ると、自然なことのように見えます。
- 18世紀のフランス革命以降、度々戦乱に遭遇
- 第二次世界大戦では、フランスが占領されてしまった
- 身の回りには、金貨がたくさんある
この状況で、銀行預金に全幅の信頼を寄せるか?と問われれば、そうではないでしょう。国がなくなるような経験をすれば、銀行を信頼するのは難しいかもしれません。
ならば、いくらかを金貨で手元に保有するのが合理的です。
一方、日本の場合も、似たような経験をしています。
- 明治開国以来、諸外国との戦乱が絶えなかった
- 第二次世界大戦では、米国に占領されてしまった
では、日本人は金貨で貯蓄するのが通常か?といえば、そうではないでしょう。
預金封鎖を経験しているにも関わらず、多くが貯蓄です。なぜかを考えると、身の回りに金貨が豊富にあったわけではないというのが、その理由の一つかもしれません。
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