ブランデンブルク・プロイセンの1ピアストル銀貨(貿易銀)

ブランデンブルク・プロイセン(Brandenburg-Preussen)は、現在のブランデンブルク州からポーランド北部にまたがる地域です。
地図で確認しましょう。下のヨーロッパ地図(引用:wikipedia 以下同じ)の右上に、2つの丸を書きました。西側(左側)がブランデンブルクで、東側(右側)がプロイセンです。飛び地になっていることが分かります。
(後に、ポーランドの一部を獲得して陸続きになりました。)

エムデン社(Emden Company)設立
さて、ブランデンブルク・プロイセンを治めていたフリードリヒ2世(在位:1740-1786)は、闘争の末に領土を増やすことに成功しました。
- 東フリースランド:下の地図の一番左側の丸部分
- シュレジエン :ブランデンブルクの南の赤丸部分

フリードリヒ2世にとって、これは彼の夢を実現するチャンスになりました。彼の夢とは、中国と直接貿易をすることです。

ノルウェーなどは、ブランデンブルク・プロイセンが自由に貿易をして国力を上げることに協力するでしょうか。協力しません。むしろ、妨害します。
そこで、フリードリヒ2世はどうすることもできませんでした。しかし、今は違います。東フリースランド地方を獲得したのです。
ノルウェーやデンマークの妨害を心配せずに海洋に出ることができます。
そこで、1751年、東フリースランドの中心都市エムデン(Emden)に対して、自由港の勅許を出して貿易を推進しました。貿易相手は中国の清です。エムデンでは、同年に会社(Royal Prussia Asiatic Company)が作られました。
通称、Emden Company(エムデン社)です。
東フリースランド地方のすぐ隣には、オランダがあります。オランダの中心都市アムステルダムは、従来、海洋貿易で成功してきました。
フリードリヒ2世は、エムデンを第二のアムステルダムにしたかった模様です。
Emden Companyの成功
エムデン社が設立されてから、清と積極的に貿易が始まりました。貿易船が16回に渡って清朝に向けて出発し、すべてが無事に帰港しました。
冒頭の写真でご案内した銀貨は、この貿易決済用に作られたものです。いわゆる貿易銀です。ここで、もう一度画像を掲載します。
![ドイツ プロイセン 1ピアストル銀貨 フリードリヒ2世[Tone EF+]【表裏】](https://www.antiquecoin.jp/img-silver/germany/7732all.png)
当時、パナマ運河もスエズ運河もありませんでした。すなわち、中国と貿易するには、アフリカ大陸をぐるりと回って中国に行く必要がありました。
途中で寄港したでしょうが、大変な航海だったことは想像に難くありません。しかし、16回の貿易を見事に成功させました。
また、この銀貨の存在で分かるのは、「欧州は中国から物を買って、中国は欧州から銀を回収する立場だった」ということです。清には、銀が蓄積されていったことが分かります。
しかし、19世紀には、この立場は逆転します。清は列強の植民地となり、貴金属を欧米に一方的に回収される立場へと転落することになります。
貿易の突然の終わり
さて、話を戻しまして、エムデン社の貿易は、突然の終わりを迎えることになりました。その理由は、7年戦争の勃発です。
下に、地図を再掲します。

ブランデンブルク・プロイセンは領土を拡大し、シュレジエンを獲得しました(赤部分)。しかし、ここはハプスブルク家のマリア=テレジアが奪回の機会を狙っていました。
マリア=テレジアは、フランスやロシアなどと同盟を組み、プロイセンに戦争を仕掛けました。プロシアは、イギリスと組んで戦いました。こうして、7年戦争(1756年~1763年)が勃発しました。
この戦争で、プロイセンは東フリースランド地方を占領されてしまいました。
清との貿易は、東フリースランド地方が存在することが前提です。これが破られたため、フリードリヒ2世の努力もかなわず、エムデン社の貿易は終了を迎えることになりました。
貿易銀の価値
さて、このウェブサイトの主題であるコインに目を向けましょう。以上の歴史を振り返りますと、ごくわずかな期間でこの銀貨の役目が終ってしまったことが分かります。
この貿易銀が製造されたのは、1751年と1752年のみです。
支払いで使われた貿易銀は、そのまま他の支払に使われることもありますが、新規にコインを作るために溶解されてしまうこともしばしばでした。
このため、現存数が少ない銀貨となっています。
神聖ローマ帝国全体を眺める
この記事は、ブランデンブルク・プロイセンに限定して書かれています。ブランデンブルクが属した神聖ローマ帝国全体を考察した記事もありますので、ご覧ください。
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