教皇領の成立からバチカン成立までの歴史

教皇領とは、ローマ教皇が支配していた領土です。そこでは、他国と同様に統治が行われていました。すなわち、コインも発行されました。
そこで、教皇領やバチカンで発行されたコインを見る前に、領土の変遷をざっくりと確認しましょう。
1,000年以上続いた領土の変遷
時は、8世紀です。フランス・ドイツ・イタリアの元となった国(フランク王国)がありました。フランク王国のピピン3世が、教皇に領土を寄進したことが、教皇領の始まりです。
下は、843年当時の世界地図です。フランク王国が3つに分割された様子が分かります。
矢印の先に、ごく薄い茶色で塗られた地域があります。これが教皇領です。この範囲には、ローマも含まれています。地図中に、赤線で下線を引いた部分です。

引用元:オレゴン大学
その後、教皇領は1,000年以上も継続しました。しかし、イタリア統一運動の結果、1870年にイタリアに編入されました。この時をもって、教皇領は消滅しました。
そして残ったのが、現在のバチカンの領域です。
教皇とイタリアは、領土をめぐって対立関係にありましたが、1929年に和解し、バチカン市国が成立しました。そして、現在に至ります。
では、バチカン市国の位置を確認しましょう。下は、イタリアの地図(引用:GoogleMap)です。ローマ市の中にあります。

下は、ローマ市を拡大したものです。赤枠で囲った部分に、「バチカン」とあります。これが、バチカン市国です。世界最小の国家です。

バチカン市国の人口は、800人ほどです。教皇を始め、教皇庁に努める聖職者や、バチカンを守るスイス衛兵などで構成されています。
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教皇の紋章
教皇領で発行されたコインには、教皇の紋章が描かれることがあります。
紋章は、時とともに変わっていますが、基本構成は概ね同じです。そこで、現在の教皇(第266代教皇フランシスコ)の紋章を確認しましょう。

盾の後ろに、鍵が2つあります(金色と銀色)。これは、ペテロの鍵と呼ばれます。
使徒のひとり、ペテロがキリストから授かったキリスト代理人の印です。この鍵は、聖俗両面における教皇の力が強いことを示しています。
教皇の冠は、立法・司法・行政の3つの権力を示しています。
引用元:The Holy See
教皇領・バチカンで発行された金貨や銀貨
では、教皇領またはバチカンで発行された金貨や銀貨を見ていきましょう。
数多くのコインが発行されましたので、ここでは、(株)ダルマで購入可能なコインを見ていきます。
グレゴリウス13世
グレゴリウス13世(在位期間:1572年~1585年)で最も著名な業績は、グレゴリオ暦の採用でしょう。現在の暦です。
1582年2月24日に採用が決まり、同年の10月5日から実行されました(ユリウス暦1582年10月5日を、グレゴリオ暦1582年10月15日としました)。
教皇領 グレゴリウス13世 1スクード・ドーロ金貨【イエス キリスト胸像】
クレメンス11世
クレメンス11世(在位期間:1700年~1721年)の治世は、スペイン継承戦争(1701年~1714年)の期間を含んでいます。
スペイン継承戦争は、ヨーロッパのみならず北米までも巻き込んだ戦争でした。教皇は、ローマを中心として広い支配地域を保有していましたので、教皇も政治闘争に巻き込まれてしまいました。
教皇領 クレメンス11世 1ピアストレ銀貨
使徒座空位(SEDE VACANTE)
各国の王様の場合、次に誰が王様になるか?というのは概ね決まっています。
このため、(内部抗争になる場合もありますが)現国王が亡くなると、すぐに次の国王が活動を始めますので空白期がありません。
しかし、バチカンの場合、教皇が亡くなると、選挙で次の教皇を決めます。この選挙をコンクラーベと呼び、選挙権を有するのは120名です(現在の定員)。
すなわち、選挙期間中は教皇不在となりますが、この間も経済活動は行われていますので、貨幣が必要です。
1823年
教皇領 1/2スクード銀貨【トーン・未使用品】
1846年
下は、グレゴリウス16世が亡くなり、ピウス9世が就任するまでの期間(1846年6月1日~1846年6月16日)に発行された銀貨です。
教皇領 1スクード銀貨【準未使用~未使用品】
ピウス9世
ピウス9世(在位期間:1846年~1878年)は、在位期間が31年間にもなり、教皇の最長在位期間記録を持っています。
在位期間を見ますと、1870年を含んでいることが分かります。1870年とはすなわち、教皇領がイタリアに編入された年です。ピウス9世は、教皇領を治めた最後の教皇ということになります。
教皇領 ローマ教皇ピウス9世 100リレ金貨【発行枚数:1,117枚】極美品
パウロ6世
パウロ6世(在位期間:1963年~1978年)は、世界で初めて五大陸を巡り、エルサレムにも初めて足を踏み入れた教皇として知られています。
下のコインの右側の建物は、サン・ピエトロ大聖堂です。
なお、こちらはコインでなくメダルです。コインとメダルの違いにつきましては、別記事「レアな金銀銅メダルの特徴-アンティークコインとの違い」でご確認ください。
バチカン ローマ教皇パウロ6世 ゴールドメダル【未使用品】
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