世界最初のコイン

リディア(リュディア)は、世界で初めてコインを作った国として知られています。リディアが存在したのは紀元前7世紀~紀元前547年ですから、今から2,500年以上も前です。
その当時から、既にコインが存在しました。そして、現在に至ってもコイン(貨幣)は経済で極めて重要な役割を担っています。
リディアの位置
リディアは、現在のトルコ西部にありました。イメージとしては、トルコの西側半分全体です(下は、首都サルディスの位置を示します)。

そして、首都サルディスの脇からエーゲ海に向けて、小さな川が流れています。パクトロス(Pactlus)川です。
この川には、かつて、金と銀の自然合金が豊富にありましたので、これを使ってコインを作りました。金と銀の合金で作ったコインを、エレクトラム貨と呼びます。
現在、サウジアラビアなどは、地下資源である石油を有効に使うことにより、経済を維持・発展させています。
当時のリディアも、自然から採れるエレクトラム貨を有効活用して、大変繁栄しました。
エレクトラム貨の問題点
しかし、問題点もありました。金含有量です。リディアで産出された自然合金は、金の含有率が40%~55%前後で、残りは銀でした。
すなわち、同じ大きさのコインであっても、金の含有量が異なりますので、価値も異なります。金含有量の大小によって、少しずつ色も異なってきます。
よって、売買の対価としての支払には、困難が伴ったと予想できます。
品物と引き換えにエレクトラム貨をもらう側は、金含有量が多いコインが欲しいです。一方、支払う側は、できれば金含有量が少ないコインで支払いたいです。
なお、エレクトラム貨は、当時の寺院遺跡から多く発掘されたため、コインではなく祭祀用のメダルだったのでは?と考える向きもあります。
当時のリディアについて、文献はあまり残されていません。そこで、発掘された物や場所から、推測していくことになります。
リディアのエレクトラム貨
下は、リディアのエレクトラム貨です。
古代ギリシャ リディア王国 1/12ステーターエレクトラム貨

左側は、右向きのライオンの顔です。頭の上に、丸いものが見えます。これは太陽です。そして、右側は、何やら四角いものがあります。これはデザインではなく、土台の跡です。
当時のコインは、下の図のようにハンマーで打ち付けて作りましたが、当時は土台部分にデザインを施していなかったということです。

クロイソス王が金銀の分離に成功
そして、クロイソス王(紀元前595年~紀元前547年頃)の時代になると、金と銀の分離に成功しました。
すなわち、金貨と銀貨の誕生です。
同じ大きさの金貨なら、金の含有量はどれも同じです。よって、経済活動をするに際して、金銀の分離は大変大きなインパクトを持っていたことでしょう。
古代ギリシャ リディア王国 ステーター銀貨【牡牛に襲いかかるライオン】
上の銀貨を見ますと、エレクトラム貨とはデザインが異なります。左側にライオン、右側に牛がいます。
下の画像に、赤枠を2つ付けました。左側が、ライオンです。右向きで上半身が描いてあり、前足を前に伸ばしながら口を大きく開けています。
右側は、牛です。こちらは、左向きで前足を大きく前に伸ばしています。

この構図を見ますと、ライオンと牛が戦っているように見えます。現代の視点で考えますと、牛と言えば乳牛だったり食肉用だったり、どう猛なイメージは乏しいかもしれません。

しかし、当時は、牛と言えば、ライオンとともに勇敢で強いというイメージの象徴でした。現代でいえば、闘牛のイメージに近いかもしれません。
通貨単位
なお、リディアの金貨・銀貨には単位があります。「Stater(スターテルまたはスターター)」です。現代語訳すれば、「スタンダード(標準・基準)」となります。
1 Stater
1/3 Stater
1/6 Stater
1/12 Stater
1/24 Stater
1/48 Stater
1スターテル金貨の重量は10.69gですが、途中から8.09gに変更されました。すなわち、金貨・銀貨の種類はとてもたくさんあることが分かります。
また、コインのデザインに数字がありません。すなわち、刻印で価値の大きさを知ることはできませんので、大きさや重量で判断します。
アケメネス朝による征服
こうして、リディアは自国内で産出される金銀によって大いに栄えましたが、クロイソス王がアケメネス朝ペルシアの捕虜となってしまい、リディアは滅亡してしまいました。
そして、アケメネス朝ペルシアはリディアの技術を受け継ぎ、世界で初めて、人の形をデザインしたコインを発行しました。
このコインについては、別記事「アケメネス朝ペルシア ダリク金貨【人の形をデザインした世界最初の金貨】」で解説していますので、ご確認ください。
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