日本最高位の勲章

大勲位菊花章頸飾(だいくんい きっかしょう けいしょく)は、日本の最高勲章です。明治21年(1888年)に制定されました。頸飾は、首飾りという意味です。
この記事で掲載している大勲位菊花章頸飾は、レプリカではありません。本物です。
上の写真の右側は、大勲位菊花章頸飾を収める箱の蓋です。左は、蓋を外した状態の写真です。
色合いにつきましては、フラッシュ等の影響がありますので、ご購入の際には、必ず実物をご確認ください。
国内では、皇族や伊藤博文、最近では中曽根元総理など、受章者数はわずかです。また、外国元首等にも贈与されており、誰が受章したか明らかになっています。
ここでご案内する大勲位菊花章頸飾は、そのうちの一つです。
ちなみに、大勲位菊花章頸飾の英語名は「Collar of the Supreme Order of the Chrysanthemum」です。
Collar:頸飾(首飾り)
Supreme Order:最高勲章
Chrysanthemum:菊
この勲章を手放した人は?
一般的に、受章者や遺族は、受章した大勲位菊花章頸飾を手放すことはないでしょう。よって、ご案内している大勲位菊花章頸飾は、極めて珍しいということになります。
ここで、気になる点があります。誰が、この大勲位菊花章頸飾を手放したのでしょうか。
大勲位菊花章頸飾には、受章者の氏名等は書いてありません。しかし、デザインである程度予想することが可能です。
と言いますのは、拝受者が皇族の場合とそれ以外の場合では、箱のデザインが異なるためです。下は、箱の画像です。最上部に菊の高蒔絵があり、その下に「大勲位菊花章頸飾」と書いてあります。

皇族が拝受する場合、デザインが異なります。文字はなく、箱全体に11個の菊の高蒔絵が配置されます。
すなわち、この大勲位菊花章頸飾は、皇族でない受章者が手放したと予想できます。ただし、それ以上の情報はなく、頸飾そのものを調べても、元の所有者を確認するのは困難です。
そこで、以下は予想になります。
- 今は存在しない国家の元首だった人の子孫
- 旧体制の元首だった人の子孫(政変等で政治体制が変わった)
- 経済的に困窮してしまい、手放さざるをえなかった子孫
何らかの理由で、手元に置きたいけれどもできなかった、と考えるのが自然でしょう。
大勲位菊花章頸飾のデザイン
では、デザインを見ていきましょう。下は、蓋を開けた状態の写真です。敷台(頸飾を置く部分)は、紫のビロードで作られています。

箱の左右に、金属の突起があります。この部分に、赤い締め紐を装着します。そして、蓋が外れないよう、蓋の上で結びます。今回は、この紐は失われた状態です。
赤枠部分を拡大したのが、下の写真です。デザインは全部で4つあることが分かります。

これら4つについて、右から順に確認しましょう。全て金(きん)で作られています。
最も右

楕円形で、長径28mm、短径24mmです(下の2つも同様)。紀元前の中国で使われていた書体「古篆」を使い、「明治」の「治」をデザイン化しています。全部で6個あります。
右から2番目

真ん中に菊の花、その周りを七宝(しっぽう)で色付けされた葉が囲んでいます。七宝とは、釉薬(ゆうやく)を焼き付けることにより、ガラス状の美しい彩色を出す方法です。全部で12個あります。
右から3番目

紀元前の中国で使われていた書体「古篆」を使い、「明治」の「明」をデザイン化しています。全部で6個あります。
最も左

直径39mmの円形です。真ん中に、金色の菊花があります。その周りは、菊の葉です。葉の部分も純金製です。頸飾使用時は、この部分が最も下になります。1つのみあります。
そしてこの部分に、大勲位菊花大綬章(下の画像)を取り付けます。
本章の表側
下は、大勲位菊花章頸飾に取り付ける本章の表側の写真です。

上の本章を見ますと、金で作られています。そして、様々な色があることが分かります。これは、七宝で作られています。また、本章は1枚の金(きん)から作られています。
これだけの精巧な作業は、機械でできません。そこで、造幣局の職員(職員というよりは「職人」の方が適切かもしれません)が、手作業で切ったり研磨したりして制作します。
1枚の金の板から作られるという点では、大勲位菊花章頸飾(首飾り部分)の丸いデザイン一つ一つも同様です。これは、細い金の糸を曲げて形作ったものではありません。金の板に型を打ち付けて、それに沿って手作業で彫ったものです。
この金の装飾は平面的でなく、立体的です。しかも、極めて細く、丁寧に磨き上げられています。
まさに、芸術品です。
本章の裏側
下の画像は、本章の裏側です。
本章の上の丸い部分(紐(ちゅう)といいます)に、文字が書いてあります。これは、「大勲旌章(だいくんせいしょう)」です。
裏側も、表側と同様、極めて高度な仕事が施されていることが分かります。

収納ケース(漆塗りの箱)
箱については既に概観しましたが、さらに確認しましょう。極めて素晴らしい漆塗りの箱です。下は、カメラで写真撮影したものです。
幕がかかっているように見えますが、これはカメラのフラッシュを反射しているために起きた現象です。漆塗りの仕事が素晴らしく、フラッシュの光を反射してしまうことが分かります。

下は、箱を正面から撮ったものです。八角形であることが分かります。

保管上の注意
大勲位菊花章頸飾を購入いただくと、実際に首からかけて利用できます。しかし、箱から取り出すと、元の位置に戻すのが大変です。
(箱から取り出さない方が良いとは思いますが)取り出す際は、あらかじめ写真を撮ると良いかもしれません。戻す時に迷わずに済みます。
また、全てが金で作ってあり、精密な作りです。破損した場合は、造幣局で修理が可能です(日本の勲章や褒章は、造幣局が作っています)。なお、アンティークコインと同様に考えるならば、修理しない方が良いかもしれません。
貴重な頸飾です。修理が必要な状態にならないよう、気をつけたいです。
主な参考文献、ウェブサイト
- 平山晋『明治勲章大図鑑』国書刊行会 2015
- 佐藤正紀『新判 勲章と褒章』全国官報販売協同組合 2014
- 内閣府ホームページ等
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