カウンターマーク【加刻印】があるコイン

既に流通しているコインに、追加して刻印が押される場合があります。この追加された印をカウンターマーク(加刻印)と呼びます。
特定の時代や地域に限定された事象ではなく、古代ローマから近代にかけて、様々な地域で見られます。
例として、イギリスのジョージ3世の治世に発行されたコインを見てみましょう。
イギリス バンクオブイングランド 1ドル銀貨
【コインNo】8372
【製造国】イギリス
【額面】1ドル
【製造年】1797年
【材質】銀
【直径】39mm
【グレード】VF+/EF
【PCGS】80067425
【カタログ】SPINK3765A/KM638

コインの画像を見ますと、肖像の首あたりに、小さな丸い印があります(下図赤枠内)。これが、カウンターマークです。カウンターマークの中にある肖像は、イギリスのジョージ3世です。
コインそのものは、ペルーで発行された銀貨です。

また、下のコインは、イギリスの造幣所(ロイヤルミント)で作られたものではなく、私企業が作ったものです。トークンと呼ばれています。
イギリス ダラム・サンダーランド 1ペニー銅貨【稀少なトークン】
なぜ、外国のコインに刻印を追加したのでしょうか。また、なぜ私企業がコイン(トークン)を発行したのでしょうか。
この理由を探ると、当時のイギリスの混乱ぶりが見えてきます。
フランス革命戦争
時代は、18世紀の末です。すなわち、フランス革命のころです。フランス革命は、1789年に起きています。そして、フランスは、ヨーロッパ中に戦争を仕掛けました(フランス革命戦争)。
この戦争において、イギリスはフランスと戦争をしています。
1796年~1797年の冬、フランス軍によるアイルランド遠征画策がありました。イギリスは、天候要因を有利に使って撃退しました。
また、1797年2月には、サン・ビセンテの海戦がありました。この海戦で、イギリスはフランス・スペインの連合軍と戦いました。イギリスの戦力は劣りましたが、勝利を収めています。
いずれにおいても、イギリスはフランス軍を退けました。しかし、いつ、何が起きるか分かりません。今までとは全く異なる、戦乱の時代です。
イギリスに住んでいる人々の防衛策
この戦争の時代、イギリスに住んでいる人々は、どうやって自分を守ったでしょうか。逃げようとしても、ヨーロッパ中が混乱していますから、イギリスに留まることになったでしょう。
イギリスとフランスの間に海があるというのは、その他の国々に比べて、安全を確保しやすい条件です。
しかし、イギリスに留まるとしても、1796年から1797年にかけて、フランスの侵入が現実味を帯びる戦闘が起きました。
この場合、どうやって自分の財産を守りましょうか。すぐにできる防衛策は、金貨・銀貨の保有です。
紙幣だと、燃えますし、水に漬かるとボロボロになるかもしれません。破れることもあるでしょう。
しかし、コインなら、世界中どこでも通用しますし、保存にも便利です。持ち運びも容易です。
こうして、住民が大挙して、紙幣を金貨・銀貨に交換しようとしました。
世の中に流通しているコインは、一気に枯渇しました。支払い手段として使うくらいなら、自分で保管した方が良いからです。
また、イングランド銀行にも、住民が押し寄せました。紙幣をコインと交換しようとしたのです。
イングランド銀行は、危機感を持ちました。すなわち、金銀が不足して交換要請に応えられないかもしれない、という懸念です。
そこで、法律が施行されました。紙幣とコインの交換停止です。1797年のことです。
カウンターマークがついたコインが流通
イングランド銀行は、コインの代わりに、1ポンド・2ポンドの紙幣を流通させました。民間銀行も、金準備の範囲内で紙幣を発行しました。
しかし、高額紙幣だけでは、経済活動をするには不十分です。そこで、イングランド銀行は、自身が保有していた外国コインを、国内流通用として放出しました。
しかし、流通させるのは外国コインです。どうすれば、これを国内コインとして人々に認知してもらえるでしょうか。
ここで登場したのが、カウンターマークです。イギリス王ジョージ3世の肖像を描いた小さな刻印を、元のコインに加えます。
こうして、イギリス国内流通用の銀貨として流通させました。
トークンが盛んに発行される
なお、イギリスでコイン製造機能を担っていたのは、ロイヤルミント(The Royal Mint)です。しかし、ロイヤルミントは、機能不全に陥っていました。
すなわち、イギリスは、コインを十分に作れない状態でした。
これに困ったのは、中小商工業者です。時は、産業革命の時代です。経済や科学技術がどんどん発展していきます。経済活動を円滑にするには、コインが必要です。
しかし、公式の銅貨は、1775年を最後に製造されなくなっていました。古い銅貨は摩耗が激しく、数も不十分です。ロイヤルミントは頼りになりません。
また、6ペンスと1シリング(ともに銀貨)は、1787年を最後に発行されなくなりました。フランス革命の前から、既に円滑な通貨発行ができない状態でした。
そこで、同じく1787年に登場したのが、代用貨幣です。トークンと呼ばれています。経済力がある私企業が、支払い手段として自前で銅貨を製造、流通させました。
通貨単位は、1/2ペニー、1ペニーやファージングが中心でした。
下のトークンは、この時期に発行されたものです。イギリスで発行されたものですが、王様の肖像はほとんどありません。王様を称賛する言葉もありません。
発行された地域の特徴などが描かれています。後世になって眺めると、様々なデザインがあって興味深いです。
しかし、トークンを発行した当時の人々としては、造幣局がまともに機能せず、フランス軍の侵攻におびえ、そうでありながら産業革命が日々進展している中での、苦肉の策だったということになります。
イギリス サマセット・ブリストル 1/2ペニー銅貨【極美品】
イギリス ウォリックシャー バーミンガム 1ペニー銅貨【極美品】
イギリス ケント州 アップルドア 1/2ペニー銅貨 風車・ライオンと子羊【極美品】
イギリス サマセット・バース 1ペニー銅貨 植物園【極美品】
イギリス ハンプシャー ベイジングストーク 1シリング銅貨 ベイジングストーク運河【プルーフライク未使用品】
イギリス ミドルセックス 1/2ペニー銅貨【極美品】
イギリス ハンプシャー ニューポート 1/2ペニー銅貨【極美品】
イギリス ノッティンガムシャー 1/2ペニー銅貨【未使用品】
イギリス ヨークシャー・ビーデル 1/2ペニー銅貨 都市景観【極美品+】
歴史(history)【カテゴリ】
古代
- アウレウス金貨とソリドゥス金貨の違い【古代ローマ帝国の貨幣制度】
- 古代ローマ帝国のアンティークコイン-製造、流出、滅亡まで
- マケドニア王国の銀貨-アレクサンダー大王を中心に
- 古代ギリシャのアンティークコイン-各都市発行の銀貨中心に
- リディア王国の貨幣-世界最初のコイン
ヨーロッパ
- イギリス王室のコインの特徴、「顔の向き」
- イギリス帝国(大英帝国)植民地で発行されたコイン
- 18世紀末のイギリスの混乱とコイン【カウンターマーク、トークン】
- 神聖ローマ帝国(ドイツ)のアンティークコイン【希少性が高い理由】
- フランスのアンティークコイン【ブルボン朝から第三共和政まで】
- フランス革命期の王国・姉妹共和国発行のコイン
- スペインのアンティークコイン【大航海時代からフェリペ2世まで】
- 教皇領・バチカンで発行されたアンティークコイン
- スイスのコイン【ナポレオン調停法時代】
- ポルトガルのアンティークコイン(大航海時代後の金貨中心)
日本
その他地域
歴史(history)
コイン別記事
古代
- 槍と弓を持って走る王
- 牛を捕食するライオン【4ドラクマ銀貨】
- デュオニソス(酩酊の神)【4ドラクマ銀貨】
- アテナ神【4ドラクマ銀貨】
- アレクサンダー大王【4ドラクマ銀貨】
- ペルセウス王【4ドラクマ銀貨】
イギリス
- ソブリン金貨の変遷
- エドワード3世ノーブル金貨
- ヴィクトリア女王ソブリン金貨
- ヴィクトリア女王ジュビリーヘッド金貨
- ヴィクトリア女王ジュビリーヘッド銀貨
- ダイアナ妃追悼記念
- ブリストルガラスが題材のコイン
- ウエアマス橋が題材のコイン
- ヘンリー8世の大悪改鋳と銀貨
- アン女王の戦勝記念銀メダル
- 【プレゼント】ハーフペニー青銅貨
フランス
ドイツ
スペイン
イタリア
その他
- 20ケツァル金貨【グアテマラ】
- サウジアラビア4ポンド金貨
- 1ルピー銀貨【モンバサ】
- 20マルカ金貨【フィンランド】
- 10グルデン金貨【オランダ】
- 8エスクード金貨【メキシコ】
- 世界最初のカラーコイン【パラオ】
- 8エスクード金貨(コブ・タイプ)【ペルー】
- 1/2ダラー記念銀貨【アメリカ】
- ルイ・ナポレオン・ボナパルト【オランダ】
- フェルディナンド1世の100レイ金貨【ルーマニア】
- 発行枚数60枚の試作金貨【ウルグアイ】
- スイス・ジュネーブ射撃祭記念コイン
- 100兆ジンバブエドル札【ジンバブエ】
- カナダ独自金貨発行90周年記念5ドル金貨
- バチカンのスイス衛兵500年記念50フラン金貨
- ラムセス2世 5ポンド金貨【エジプト】