植民地オーストラリアで発行された金貨

オーストラリアは、各種探検を経て、19世紀前半には大英帝国(イギリス)の植民地となりました。
一般的に、イギリス植民地で金(きん)が見つかると、イギリス本国に輸送します。そして、イギリス国内で金貨にして、植民地に返送されました。
すなわち、造幣所はイギリス本国にあるということになります。
ところが、植民地だったオーストラリアでは、造幣所が3つありました。下の通りです。
- メルボルン(Melbourne)
- パース(Perth)
- シドニー(Sydney)
下は、各都市の場所を地図に示したものです。アデレード(Adelaide)には、金の試験施設がありました。

ゴールドラッシュ
上の地図を見ると、あることに気づくでしょう。それは、造幣所や試験場が、オーストラリア南東部に集中していることです。
これには、理由があります。
1851年、ニューサウスウェールズ州(シドニーがある州)と、ヴィクトリア州(メルボルンがある州)で、大規模な金鉱山が発見されたのです。
すなわち、ゴールドラッシュの始まりです。ゴールドラッシュと言えば、カリフォルニア州が有名ですが、同時期のオーストラリアでも発生しました。
すると、大勢の人が一獲千金を夢見て、オーストラリア全土からこの地域に集合しました。
金貨不足が顕著
ちなみに、この地域に向けて大勢の人が引っ越す際、銀行に預けていた金貨を引き出して持ち運びました。生活の支払に充てるためです。
すると、金貨の需要が激増しました。金貨が足りません。金貨は足りませんが、金そのものは有り余っています。ゴールドラッシュで採掘が盛んだからです。
さて、どうしましょうか。金貨は、イギリス本国でしか作れません。
現代なら、電話で状況を説明して指示を得るのは簡単でしょう。ところが、当時は手紙です。オーストラリアから船で手紙を送り、イギリスで協議して、その結果をオーストラリアに返送して、実行するという手順になります。
しかし、そんな悠長な時間はありません。
というわけで、オーストラリア側の判断で、アデレードで金貨が発行されました。1852年のことです。結局は、イギリス本国からダメだと言われてしまい、先走った金貨発行は1年で終了しました。
アデレード発行の金貨は現存数が少なく、とても高額な価格がついています。
シドニー造幣所が作られる
アデレードでの金貨発行は、わずか1年で終わりました。しかし、その後、イギリス本国から許可が下りました。1855年、イギリス植民地で初めて、イギリス本国以外で造幣所が作られました。
シドニー造幣所です。
オーストラリアの独自デザインで、金貨が発行されることもありました。しかし、多くの場合、イギリス本国と全く同じデザインで発行されています。
下は、シドニー造幣所の模様を描いた絵です。19世紀は、産業革命が進展した時代です。よって、シドニー造幣所でも、機械で製造していたことが分かります。

2分の1ソブリン金貨
では、この時代に作られた金貨を見ていきましょう。
下の金貨は、1900年にオーストラリアで発行された金貨です(シドニー造幣所で製造)。下のデザインは、1893年から1900年にわたって発行されましたので、最終年の金貨ということになります。
ちなみに、オーストラリアは、1901年に自治領として事実上独立しました。
1/2ソボレン金貨 ヴィクトリア【オールドヘッド】
イギリス本国発行の金貨と同じデザイン
植民地下のオーストラリアで発行された金貨は、一部の例外を除いて、イギリス本国発行の金貨と同じ重量、同じデザインを採用しています。
では、この金貨はイギリス本国で作られたのか、それともオーストラリアで作られたのか、どうやって見分ければ良いでしょうか。
それは、ミントマークで判断します。ミント(mint)とは、造幣所のことです。
オーストラリアの金貨には、ミントマークが刻印されています。場所は、下の画像の通りです。赤枠部分に「S」の文字があるのが分かります。シドニー(Sydney)のSです。

2分の1ソブリン金貨は、直径が19mmです。そのコインの中に、この小さなSが刻印されています。ルーペを使わないと、はっきりと見えないかもしれません。
ちなみに、ミントマークと造幣所の対応関係は、下の通りです。
M:メルボルン(Melbourne)
P:パース(Perth)
S:シドニー(Sydney)
比較的お手頃な価格で購入可能
オーストラリアの金貨は、イギリス本国と比べて比較的購入しやすい価格帯が多いです。よって、オーストラリアのコインを収集したい場合、比較的取り組みやすいといえるでしょう。
(中には、記事冒頭でご案内しましたアデレードの金貨のような、高額金貨もあります。)
歴史(history)【カテゴリ】
古代
- アウレウス金貨とソリドゥス金貨の違い【古代ローマ帝国の貨幣制度】
- 古代ローマ帝国のアンティークコイン-製造、流出、滅亡まで
- マケドニア王国の銀貨-アレクサンダー大王を中心に
- 古代ギリシャのアンティークコイン-各都市発行の銀貨中心に
- リディア王国の貨幣-世界最初のコイン
ヨーロッパ
- イギリス王室のコインの特徴、「顔の向き」
- イギリス帝国(大英帝国)植民地で発行されたコイン
- 18世紀末のイギリスの混乱とコイン【カウンターマーク、トークン】
- 神聖ローマ帝国(ドイツ)のアンティークコイン【希少性が高い理由】
- フランスのアンティークコイン【ブルボン朝から第三共和政まで】
- フランス革命期の王国・姉妹共和国発行のコイン
- スペインのアンティークコイン【大航海時代からフェリペ2世まで】
- 教皇領・バチカンで発行されたアンティークコイン
- スイスのコイン【ナポレオン調停法時代】
- ポルトガルのアンティークコイン(大航海時代後の金貨中心)
日本
その他地域
歴史(history)
コイン別記事
古代
- 槍と弓を持って走る王
- 牛を捕食するライオン【4ドラクマ銀貨】
- デュオニソス(酩酊の神)【4ドラクマ銀貨】
- アテナ神【4ドラクマ銀貨】
- アレクサンダー大王【4ドラクマ銀貨】
- ペルセウス王【4ドラクマ銀貨】
イギリス
- ソブリン金貨の変遷
- エドワード3世ノーブル金貨
- ヴィクトリア女王ソブリン金貨
- ヴィクトリア女王ジュビリーヘッド金貨
- ヴィクトリア女王ジュビリーヘッド銀貨
- ダイアナ妃追悼記念
- ブリストルガラスが題材のコイン
- ウエアマス橋が題材のコイン
- ヘンリー8世の大悪改鋳と銀貨
- アン女王の戦勝記念銀メダル
- 【プレゼント】ハーフペニー青銅貨
フランス
ドイツ
スペイン
イタリア
その他
- 20ケツァル金貨【グアテマラ】
- サウジアラビア4ポンド金貨
- 1ルピー銀貨【モンバサ】
- 20マルカ金貨【フィンランド】
- 10グルデン金貨【オランダ】
- 8エスクード金貨【メキシコ】
- 世界最初のカラーコイン【パラオ】
- 8エスクード金貨(コブ・タイプ)【ペルー】
- 1/2ダラー記念銀貨【アメリカ】
- ルイ・ナポレオン・ボナパルト【オランダ】
- フェルディナンド1世の100レイ金貨【ルーマニア】
- 発行枚数60枚の試作金貨【ウルグアイ】
- スイス・ジュネーブ射撃祭記念コイン
- 100兆ジンバブエドル札【ジンバブエ】
- カナダ独自金貨発行90周年記念5ドル金貨
- バチカンのスイス衛兵500年記念50フラン金貨
- ラムセス2世 5ポンド金貨【エジプト】