アウレウス金貨とソリドゥス金貨の違い

コインには、様々な種類があります。そして、時代とともに名前が変わることがあります。
例えば、古代ローマ時代です。
アウレウス金貨から、ソリドゥス金貨に代わりました。
疑問:金貨の名前が変わる意味とは
古代ローマ時代の金貨は、現代でも大変人気があります。そこで、当時の金貨の歴史を調べたことがある人は多いでしょう。
歴史書物を読むと、以下のような文章に出会います。
紀元前46年、1枚当たり8.18gの金でアウレウス金貨が作られるようになった。その後、ローマコインの品質は低下していき、経済が混乱したため、コンスタンティヌス帝がソリドゥス金貨を定めた。
これが、良く分からないという人は少なくないと思います。
金貨は金(きん)ですから、名前が変わったところで金貨に変わりありません。そして、アウレウス金貨は、時とともに金含有量が減っています。また、金と銀の交換比率も、時とともに変わっています。
金の量目が変化し、金銀交換比率も変わるけれど、コインの名称はアウレウス金貨です。そして、コンスタンティヌス帝は、新たにソリドゥス金貨を定める…。
名前が変わって、一体何が変わるの?今までと同じなのでは?ということです。
現代日本の円
これを理解するために、現代日本の硬貨で考えてみましょう。
私たちは、毎日のように硬貨を使っています。500円硬貨の材質は、「銅72%、亜鉛20%、ニッケル8%」です。また、500円硬貨の材質は、1999年までと2000年以降で少し変わっています。
しかし、コレクター以外は、それを気に留めることはないでしょう。500円は、500円です。私たちがこれを気にしないのは、貨幣の材質と表示された金額に関連性がないためです。
紙幣も同様です。紙幣は、デザインがあれこれ細かく描いてありますが、紙です。1万円札の紙自体には、1万円の価値はありません。
世の中の人全員が、「お札は日銀が発行していて、価値を保証している。だから、1万円札には1万円の価値がある。」と思っているから、1万円として通用するというだけです。
この、金や銀の保証なしに通用している通貨制度を「管理通貨制度」と呼びます。
古代ローマ時代の貨幣
再び、古代ローマのコインに戻りましょう。当時、「ローマ帝国皇帝が作ったコインだから、貨幣の材質に関係なく価値があると認めなさい」と命令したとしても、世の中の人々は、それに従わなかったことでしょう。
そこで、金(きん)や銀といった貴金属が重要になります。貴金属でコインを作って、世の中の人々にその価値を認めさせていました。
初期のアウレウス金貨は、金が8.18gありました。すなわち、金8.18g相応の価値があるとして認識されました。
その後、ローマ帝国内の金備蓄が徐々に減り、十分な量の金貨を作れなくなりました。そこで、1枚当たりの金含有量を減らそう!という施策が実行されます。
こうして、1枚当たりの金の含有量(量目)が少ない金貨が発行されます。しかし、名前はアウレウス金貨のままです。
古代ローマ帝国では、数多くの皇帝が出ました。そして、皇帝は自分の顔や名前が入った金貨や銀貨を発行するのですが、その価値は徐々に下落しました。貴金属の含有量が減ったためです。
すると、金貨や銀貨などを使って決済するような大きな貿易商などの間で、こんなことが起きます。
貿易商A:
この商品だと、代金はアウレウス金貨10枚だね。
貿易商B:
OK。はい、10枚。(金貨を10枚渡しました)
貿易商A:
いろんな金貨が混じっていますね…。おっと、価値の低いアウレウス金貨が5枚混じっているよ。金の量が少ないから、これは他の金貨と同じように扱えないね。金貨3枚分だ。
貿易商B:
え?そうなの?じゃあ、足りない分は銀貨で払います。(金貨2枚分の銀貨を払いました)
貿易商A:
銀貨も使いたいって?仕方ないなあ、金と銀の交換比率は…。
ん?この銀貨は、銀貨という名前だけど銅の方が多いんだ。ローマのコインは、品質が落ちる一方だねえ。これを他の銀貨と同じように使ってもらっては困るよ。
仕方ないから、この銀貨の価値を計算して…

実際にこんな面倒なことが行われていたかどうか不明ですが、似たような計算は必要だったことでしょう。すなわち、あまりに非効率です。
貨幣制度改革
この非効率さの程度がどんどんひどくなり、経済が混乱して厳しい…というところで、コンスタンティヌス帝(在位:307-337)が貨幣制度を改革しました。
こうして作られたのが、ソリドゥス金貨です。金貨だけでなく、貨幣制度全体の改革が実行されました。
金貨1枚に含まれる金の量=72分の1リブラ(リブラ:量の単位)
金貨1枚=アルゲンテウス銀貨25枚
など。
こうして、貨幣の価値は安定しました…といいたいところですが、ローマ帝国での貴金属不足は深刻であり、大幅なインフレーションに見舞われました。
4世紀初頭から5世紀半ばにかけてのインフレ率は、10倍くらいです。
こうして、混乱の中、西ローマ帝国は476年に滅亡することになります(ローマ帝国の分割で誕生した東ローマ帝国は、その後1,000年ほど継続しました)。
アウレウス金貨
帝政ローマ 第2代皇帝ティベリウス
帝政ローマ 第5代皇帝ネロ
帝政ローマ 五賢帝アントニヌス・ピウス
帝政ローマ 五賢帝マルクス・アウレリウス
ソリドゥス金貨
帝政ローマ コンスタンティヌス1世【極美品】
帝政ローマ ウァレンティニアヌス3世
帝政ローマ テオドシウス王朝皇帝ホノリウス【極美品】
- 関連・参考ページ
- 古代ローマ帝国のアンティークコイン
歴史(history)【カテゴリ】
目次
- アウレウス金貨とソリドゥス金貨の違い【古代ローマ帝国の貨幣制度】
- 古代ローマ帝国のアンティークコイン-製造、流出、滅亡まで
- マケドニア王国の銀貨-アレクサンダー大王を中心に
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