specimen(SP、スピシメン)とは|アンティークコイン用語

用語集/用語解説【カテゴリ】
翻訳
specimen【アンティークコイン用語】

アンティークコインの世界には、「稀に見聞きする単語だけれども、その意味を知っている人は何人いるだろう?」という言葉が少なくありません。

さらに、その単語の意味を調べても、ウェブサイトに出てきません。不思議な単語です。アンティークコイン以外の世界では、このような例はなかなかないでしょう。

今回は、そのような単語の一つ「specimen(スピシメン)」について考察します。どんな意味があるでしょうか。

specimenの不思議

最初に、specimenという単語が使われている例をご案内しましょう。下の銀貨をご覧ください。

スペイン フェルディナンド7世 20レアル銀貨 Specimen

【コインNo】 6150
【発行国】スペイン
【額面】20レアル
【発行年】1822年
【素材】銀
【直径】37mm
【グレード】PL AU/UNC
【NGC】3834224-001
【カタログ】DAV325/KM561

売り切れ

スラブ(コインが収められているケース)の表示をご覧ください。「SP62」とあります。62はグレードで、「未使用」を示します。

では、SPとは何でしょうか。

SP62と明示されているコイン

SPは、specimenを示します。これだけ大きく書かれると、「知っていて当然だよね?」と言われているようにさえ感じます。

specimenを日本語にすると、「見本」です。しかし、見本ではスッキリしません。「アンティークコインの見本」とは何でしょうか。そして、プルーフ(贈呈貨)との違いは何でしょうか。

意味を一言で書ければ良いのですが、残念ながらできません。複数の意味があります。そこで、以下、その意味や背景をご案内します。

specimenは紙幣の用語

この言葉は、アンティークコインの世界に昔から存在したものではありません。1900年代後半から、徐々に使われだした言葉です。

すなわち、それよりも前には、この単語は存在しませんでした。この単語は、元は紙幣用語です。

ある国が、新規にお札を発行するとしましょう。いきなり流通させると、偽物か本物かの区別ができず、関係機関が混乱する可能性があります。

そこで、お札に「specimen」「見本」などと印字して、一般流通前に関係機関に配布しました。

下は、国立印刷局からの引用です。ウェブ用に掲載した紙幣にSPECIMENと書いたものです。ウェブに掲載する場合は、見本というよりも偽造防止目的でしょう。

SPECIMENのお札(サンプル)

アンティークコインでの使われ方

では、アンティークコインの世界では、どのような意味で使われるでしょうか。これを確実に理解するために、関連用語を先に確認しましょう。

プルーフ(proof)

贈呈貨です。すなわち、一般流通用の通常貨と異なり、コインの元になる金属を磨き上げています。また、刻印も丁寧に作られています。出来栄えも、通常貨と大きく異なります。

プルーフライク(proof-like)

プルーフ製造後に通常貨を作りますが、最初期に作られた通常貨は、プルーフの輝きを少し保っています。そのようなコインをプルーフライクと呼びます。

では、主な使い方を2種類ご案内します。

新規カテゴリとして使われる場合

specimenを、以下の格付で使う場合があります。

  • proof
  • specimen
  • proof-like

すなわち、プルーフ(贈呈貨)ほどピカピカでないけれど、proof-likeのような通常貨でもなくて特別に作ったものだ、という位置づけです。

下は、KMカタログ(Standard Catalog of World Coins)からの引用です。上側の赤枠はプルーフのセット、下側がspecimen(スピシメン)のセットです。

SPECIMENのカタログ

通常貨とは別で、わざわざ欄を設けてspecimenを掲載しています。

すなわち、プルーフほどでないけれども、通常貨よりは丁寧に作られている特別なコインだということを示しています。主にコレクター向けです。

このような位置づけですから、プルーフの方が高価です。

プルーフだと断定できない場合など

もう一つの使い方は、「プルーフに違いないだろうけれど、プルーフと断定できないからspecimenにしよう」といった例です。

この記事の冒頭でご案内しました銀貨は、これに近い使い方をしています。この銀貨の発行年代は、1822年です。当時、アンティークコイン業界にspecimenという用語はありませんでした。

各国の造幣局では、いつ、どのようなコインを何枚発行したかという記録を残しています。このため、KMカタログを見ますと、1枚単位で正確な発行枚数が分かる例が多数あります。

プルーフ貨を発行すれば、「〇〇年に、プルーフ貨を××枚」という具合です。

ところが、どう見てもプルーフなのに、造幣局の記録ではプルーフと書かれていない例が、時々あります。

こういうとき、分類するアンティークコイン専門家は苦慮することになります。

「この輝きは、プルーフだ。しかし、造幣局の記録にはそう書いていない。ここでプルーフと断定すると、もしかしたら間違いかもしれない。しかし、明らかに通常貨ではない…。」

「プルーフライクと書くには、少々問題があるかもしれない。しかし、プルーフとも言えない…。」

さて、困りました。どうしましょうか。ここで、都合が良いと書いては語弊があるかもしれませんが、使い勝手の良い単語が出てきました。specimenです。

冒頭の銀貨も、この流れでSPと付されたのでしょう。実際に手に取って眺めますと、明らかに通常貨と異なる輝きを放っています。

鑑定したNGCの評価はSP、すなわちspecimenです。ダルマの解説には、proof-like specimenとあります。両方とも同じ意味内容を持っています。

このような珍しいコインは、価格も跳ね上がる傾向にあります。銀貨でこの価格ですから、大変貴重な逸品だと分かります。

用語集/用語解説【カテゴリ】

ページトップへ戻る